以下は単なるフィクション小芝居なので、読み飛ばしても問題ありません
1566年ごろ、二度滅亡した三浦家は浦上家を後ろ盾とし、家臣たちの協力を得て再び高田城に立ちあがった。
その三浦家当主となった三浦貞広と、叔父・貞盛は、高田城の庭を眺め、亡き三浦貞久を偲んでいた。
――高田城
「うむ。才五郎。苦難であったな。よう、よう頑張ったな。儂は、儂は――っ!」
「(兄上、才五郎は、立派に元服した。あのころの兄上と、同じ年の頃となったぞ)」
……
「いえ。俺も、胸が一杯です。ようやく父上と同じ場所に立つことができたのだと思えば……この庭にもまた、特別な感情が湧くというもの」
「しかし叔父上、それはそれとして、今この状況で、三浦家はミウラケサイコウを果たしたことになりましょうか」
「ミウラケサイコウです、叔父上。俺はそれが成されているとは思いませぬ。叔父上、俺は、ミウラケサイコウを果たすまでは死んでも死にきれぬのです」
「何を申すのだ才五郎。我らは高田城を取り戻した。すでに三浦家再興は成されたであろう」
「いいえ叔父上、それは違う。ミウラケサイコウとなるには、――まず領地を拡大する必要がある」
「おい、よいか、才五郎。そもそも、三浦家、再興というのはだな……」
――お話は聞かせていただき申した!
ババッ
「家臣改め、それがし、牧良長! 三浦家再興に関してはおまかせくだされ」
ババッ
「同じく、その弟、牧国信! 三浦家再興に関してはまかせてくれ」
ババッ
「うむ。牧良長に国信! ……ならば早速だが、備中へと刈り働きに出てくれるか」
「そうだ。俺の弟、貞勝を自害に追い込んだ三村家を許すわけにはいかぬ。いずれやつらの居城、備中松山城は……攻め落とす!」
ミウラケサイコウッ! ミウラケサーイコウッ!
20年前――
「ミウラケサイコウ……とは、その、いったい、何をいみすることなのでしょうか」
「……6秒かかったぞ、この痴れ者が! それくらい自分の頭で考えろ!」
「(すまぬな才五郎、これもお前のためなのだ。自分の頭で物事を考えられぬものに、この乱世は生き抜けぬ。強く生きよ、才五郎! そして三浦家再興を成しとげるのだぞ……!)」
「……儂としたことが、教育を間違ったか……まさか本当に三浦家再興の意味がわからぬまま元服するとは。なんという……ああ、阿呆の子となってしまったのだ、才五郎っ!」
「――いや、それはまだいい。だが、三村元親の背後にはあの毛利家がおる……感情まかせの行動に、家臣たちを巻き込むことになるのだぞ。三浦の当主となったこと。その意味をわかっておるのか――」
――貞盛様!
「そんなこたぁ我ら、覚悟の上じゃあ。この良長、貞広様とはそりが合わぬ-1が、身命をとして三浦家に尽くす所存じゃ。こたびの再興こそ、三浦党の力を近隣に示す時じゃろう。そして、ミウラケサイコウをいたそうではありませぬか」
「貞盛様、三浦家の存続は、もとより我々にとっても悲願。我ら何度も滅亡したが、こんな状況で領地拡大、今までその発想はなかった。我らはいよいよ、そうあらねばならぬのかもしれぬ。貞広様とはそりは合わぬが-1」
「はは、わはは。ミウラケ、サイコウ。ミウラケサイコウか。口にしてみると不思議な響きだな……。よし、じつは才五郎とはそりが合わぬが-1、儂も腹をくくるとするか!」
「(貞広様、人望なすぎだぞい。かくいう儂もやつとはそりが合わぬけど-1……)」
――
「前途多難だが、家臣たちの士気は高い。“ミウラケサイコウ”のもとに団結したのだ」
バサッ
「叔父上の部屋で見つけた、三浦家の生き残る道が示された書物――父上、見ていてくだされ。俺は必ず――”ミウラケサイコウ”をする!」
その日から三浦家中は皆、言葉の定義もなされぬままに「ミウラケサイコウ」を口にするようになったのである。はたして三浦貞広のミウラケサイコウは、そりの合わない家臣たちとともに成されるのであろうか……。