以下は単なる小芝居なので、読み飛ばしても問題ありません。
1586年11月、秋の虫も寝静まる丑三つ時。なにやら心がざわついて眠れない南条隆信は、城下を歩いて気を紛らしていたが、そこで不思議な音を耳にした。
カコーン……カコーン……
?「人を呪わば穴ふたつ……。うらめしやーうらめしやー。なむなむ。キエェェー! 呪われろぉー伊達政宗ぇー! 葛西晴信ぅー!」ドコドコドコドコ
?「誰だ!」
「たた、た、隆信か! お主、こんなところで何をしておるのだ」
「いや、妙な音を聞いたもので。そもそもここは我が城下なのですが。殿こそ、どうされたのですか」
「しかし……しかしな、なぜにこの世は儂の思った通りにならんのだ……。やることなすこと裏目に出てしまう。あまりにもひどすぎるではないか。このままでは後世に名を残すこともできぬ。なぜ名門である大崎家の儂ではなく、伊達政宗ばかりが目立っているのだ! あぁ、とても耐えられぬわ」
「殿……世の中というものはそういうものです。我々は、大木の間にひっそりと佇む(朽ちかけの)可憐な華なのです。それ以上を望んでも、不幸な結果を生むだけですよ」
「いやじゃ! 伊達に従わなければ生きてゆけぬ、こんな世界はもう真っ平じゃ! 儂も目立ちたいよー! そして寵童を囲って(ピー音)」
「(やれやれ。大崎家の行く末が心配だ)……では、家臣の中で長老の一栗放牛殿に相談に行きましょう。あの方ならば、何か良案が浮かぶかもしれませぬ」
一栗放牛の居城・一栗城。
「伊達政宗ぇ突っ◯すだ。二度と大崎領に来ねぇように伊達衆みんな突っ◯すだよ!」
「(しまった、あの放牛殿がこれほど衰えているとは……) 殿、どうやら放牛殿は体調がすぐれぬ様子、次は―――」
「ふむ。やはり夜な夜な呪うだけではダメか……。よく言うた、よく言うたぞ放牛! 伊達政宗、突っ◯しはせぬが、必ずや我が前に屈服させてやるわ!」
「申し訳ない。祖父は最近、軍記『七人のサムライたち』にご執心でしてな。多少アレも始まっておるゆえ、調子の悪き時などはこのようになってしまうのだ」
「大崎家中が結束すれば葛西や伊達などは恐るるにたらず! 我々の力を見せつけてやるのだ。そして……我が大崎の名を全国に知らしめるのだ!」
その後、大崎家当主・大崎義隆は伊達家へ絶縁を告げる書状を送りつけた。これにより、大崎家は引くに引けない状況となったのである。
大崎家による反撃の胎動とは、大崎義隆の怨念そのものだったのだ。
※当たり前ですがフィクションです。